上野スクエア構想

「スクエア」とは、街の中にある広場やオープンスペースで、特に色んな道が交差する場所、都市の中心に位置するものを指す言葉です。東京文化資源区をひとつの街として捉えるとき、その3km圏のセンターに位置するのが「上野」の街でした。東京文化資源区では2016年度に「上野スクエア構想」をスタートさせ、まさに資源区の中心で多様な文化が交差し、出会い、高め合う上野界隈を描くための戦略を議論しています。

上野の街が抱えてきた長年の課題は、施設が集まる上野の山(文化の杜)から、人が街に下りてこないということ。しかし一方で、街には街の文化があるはず。私たちは、美術館や博物館といった施設型の魅力はすでに豊富な上野だからこそ、「文化×街」をテーマに界隈の魅力を再発掘することで、言わずと知れた江戸・東京有数の文化都市としての伝統を受け継ぎ、日本国内のみならず世界へ向けた都心の玄関口としてのオープンさを高めていけるのではないかと考えています。

検討内容

<都市調査:文化資源の基層を探る>
はじめに上野の街が持っている文化資源の全容を把握することが重要と考え、「自然軸」「空間軸」「生活軸」の3つの観点に分けて上野界隈の文化特性を把握することを試みています。「自然軸」では地形や緑地、池空間に関する調査、「空間軸」では土地利用や街路形成の変遷についての調査、「生活軸」では施設や交通あるいは文学や記事における描かれ方などを調査しました。

<人的調査:アクティビティ調査&ヒアリング調査>
人々が上野をどのように楽しみ、楽しませようとしているのかを理解するため、2種類の調査を行っています。1つめはアクティビティ調査。不忍池でどのような通過行動・滞留行動が起こっているのかのマッピング調査、あるいは駅から人がどのように動いているのかを把握するための出入口カウント調査を実施するなどしています。もう1つはヒアリング調査。特に上野公園管理者や地元まちづくり組織の方々にこれまでの経緯やこれからのまちづくりビジョンを伺い、最新情報を共有し常に連携を模索するようにしています。

<上野スクエアまちあるき>
委員会での屋内の議論ばかりでなく、実際に上野の街を歩いて体感し、実際のまちを舞台にして議論をする試みを行いました。まちあるきの中では、まだ知らなかった資源や新たな発見も多く発見することができ、実際にまちを見ることの大切さを再認識できました。

<ターゲッティング:開放系文化資源に囲まれた四辺形>
「上野スクエア」とはどこなのか。それを議論する中で、上野スクエアの本質である「文化×街」の価値をよく表すキーワードとして”開放系文化資源”を掲げました。”開放系文化資源”とは、1カ所で完結せず街との接点を多く有し、誰もが参加可能で滞在の仕方に選択性がある文化資源のことであると定義し、これに近い特性を持つ文化資源をこの条件に沿って磨いていくことで、都市空間そのものを文化資源として楽しめるものにしたい、という考え方です。

上野の重要な”開放系文化資源”である「不忍池」「湯島天満宮」「広小路・御徒町駅前」「アーツ千代田3331」という4つのスポットは、相互を回遊する動きがまだまだ少なく、かつこの4スポットに囲まれたエリアは、風俗街からの脱却を目指す池之端仲町通りや地元の方々が取り組む学問の道づくりなど、前向きな動きがある地区です。構想委員会は、この四辺形のエリアを「上野スクエア」と見定め、千代田区・文京区・台東区の3区を横断したエリアづくりをしたうえで、上野の杜や本郷、秋葉原といった周辺の文化エリアを繋いでいくことを目指します。

<ポテンシャル調査とプロジェクト検討>
今後以下のような視点で、「上野スクエア」の具体的な構想づくりを進めていきます。
・隠れた資源の発掘:楽しみ方の発掘と、回遊性の向上
・エリアビジョンの提案:共有できるまちづくりの方針とプロセス
・公共空間のデザイン提案:不忍池や街路空間を中心に
・空きフロアの活用スキーム提案:空きが出始めた風俗街の再生
・エリアを表す呼称提案:エリアブランディングによる自律的文化圏を目指す

アーツ&スナック運動

2019年度より、上野スクエアエリア内での具体的なアクションとして「アーツ&スナック運動」に取り組んでいます。地元ビルオーナー・東京大学都市デザイン研究室・東京文化資源会議上野スクエア構想有志が連携したプロジェクトで、不忍池のすぐ南側の一帯である池之端仲町かいわいを対象として進めています。この界隈は、上野スクエア構想としても、不忍池との関わりが深く、上野と湯島を東西に繋ぎ、かつ吹貫横丁を通じてアーツ千代田3331まで繋がる扇の要となる地区です。

池之端仲町には、上野と本郷をつなぐ「池之端仲町通り」を中心にかつて江戸一流の商舗が建ち並び、「関東大震災までは銀座よりもいい店が沢山あった」とさえ伝わるエリアで、歓楽街でありながら文化・歴史に裏打ちされた独特の風情に溢れる街です。しかし近年、路上は客引きが多く、その対策を施すとテナントが撤退し空き区画が増え、さらに人通りが減るという悪循環に陥っていました。

2019年4月から地元ビルオーナー中心に呼びかけての勉強会を重ね、街にある「空きスペース」を使ったまちづくりの方法論を議論し、その最初の成果として2019年9月20・21日に「第1回アーツアンドスナック運動 –池之端仲町をひらく二日間-」を開催しました。街なかに点在する空きテナントを同時多発的に超短期利用して、この街が本来持っている多様な文化性=『アーツ』でジャック。藝大生が制作したドキュメンタリー映像展や仲町通りを行進するワークショップ、老舗の技巧体験やナイトライフの実態をスナックママが語るトークイベント、さらにはVtuberが接客する未来型スナックなどの様々な企画を組み合わせて、“文化的歓楽街“ならではの体験や価値を創出することを試みました。

参加者の方々からご好評をいただいたのみならず、当運動の今後の展開に関心をお寄せくださる方も多く、様々な形でこの「運動」は続いていく予定です。イベントの継続と拡大はもちろんながら、COVID-19の影響が大きい地区だけに、空きテナントだけでなく路上や屋上といった屋外の空きスペースも柔軟に使いこなしながら“文化的歓楽街“の都市体験を再生したいと考えています。

なお第1回の当日の様子や企画コンセプト、参加者の声などをまとめた充実の小冊子『アーツ&スナック運動#1』を実行委員会が1部500円で販売しています。お求めの方はnagano[at]ud.t.u-tokyo.ac.jp(担当:永野)までご連絡ください。

参考URL
https://www.ikenohata-nakacho.com/
https://bunkyo.keizai.biz/headline/620/