湯島神田社寺会堂プロジェクト

わが国は古くから中国の文化、そして明治以降は欧米の文化を柔軟に受容・咀嚼して日本独自の精神文化(哲学、倫理、宗教、社会思想、芸術・芸能、科学など)を育ててきた。近年「クールジャパン」が世界的に受容されているという事実も、表面的な一過性のものではなく、こうした伝統の深みと広がりの支えがあってのことであろう。
しかし戦後の高度経済成長以降、日本が経済的に豊かになる一方、それを支える文化に対する認識が弱まってきたことは否定できない。前回1964年の東京オリンピックは、高速道路網の建設に象徴される社会インフラを充実させたにもかかわらず、我が国がどのような社会をめざしているのかを明らかにすることができなかった。1997年の金融危機以後の20年におよぶ経済的停滞の背後には、こうした社会目標の喪失があるのではないだろうか。
そのように考えたとき、今回2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催は、その文化プログラムを通じて、新たな社会目標を創りだすまたとない好機である。
東京文化資源区(CTN)には、湯島、本郷、上野、神保町を含む神田、駿河台など、日本における近代精神文化の形成に大きな役割を果たしてきた地域が多く含まれる。2020年を目途として、この地域から新しい日本の精神文化の形成に取り組んでいくことは、オリンピック開催後の東京のみならず、地域固有の文化を育ててきた全国の地域活性化にとって先導的意味をもつはずである。
こうした日本社会の新しい理念的方向性を考えるため、東京文化資源会議内に検討会を設置することとしたい。

検討内容

CTN内の各種学術・宗教・文化施設ネットワークの中心地域として位置づけられる湯島周辺の文化施設の活性化および連携協力による、新しい日本の社会理念の創造と普及のあり方およびそれを実現するための活動プログラム・環境整備の方向性について論議する。
将来的には、プログラム実施の中核機関となる「湯島社寺会堂(仮称)」の設立を視野に入れる。湯島聖堂は江戸時代における朱子学研究の中心であり、当時の統治エリートは厳しい知的訓練を受けた。そこで涵養された知的能力は後の日本近代化の基盤ともなった。また、東京大学、東京国立博物館、国立国会図書館など、日本を代表する学術文化機関の原型を生み出したのも湯島聖堂である。
その意味において、湯島を中心とする学術文化施設とその文化資源を、今後の日本社会の目標を考えていくための新たな礎として活用し、同じ儒学の伝統を共有する東アジアとの連携を進める方策を検討する。

検討事項

1.神田明神、ニコライ堂、湯島聖堂、湯島天満宮、弓町本郷教会など、湯島周辺の学術・宗教施設がこれまで果たしてきた社会的役割の評価と現在の問題点(ハード・ソフトの両面)
2.これら諸施設が今後の日本における社会理念・社会倫理形成において果たすべき役割
3.それを可能にする文化プログラムと環境整備プログラムの在り方
4.このような日本文化発信による国内外に向けた新たな文化観光の在り方
5.東京大学、明治大学等周辺大学、神保町古書店街など周辺の学術・文化施設及び地域団体・住民(氏子等)との連携策(地域貢献の観点を含む)
検討体制
関係施設及び有識者による検討会を組織する。
事務は東京文化資源会議で行う。
委員名簿
宇野 求 (東京理科大学教授):座長
押見 昌純 (湯島天満宮禰宜)
国広 ジョージ (国士舘大学教授)
齋藤 希史 (東京大学教授)
サム・ホールデン(㈱赤坂文化社エディター):PM
清水 祥彦 (神田明神権宮司)
対中 秀行 (東京復活大聖堂教会司祭)
平  正路 (斯文会事務局長(湯島聖堂))
張 競 (明治大学教授)
鳥居 繁 (神田明神権禰宜)
中島 隆博 (東京大学教授)
広田 直行 (日本大学教授)
藤井 恵介 (東京大学教授)
山崎 繭加 (東京大学特任助教)
吉見 俊哉 (東京大学教授)
(敬称略:50音順)